この連作は2020年の8月から書きはじめました。小説ではなくシナリオで書くことにしたのは、コロナ禍の日常をいくつもどんどん書こうとしたからです。スピード重視でした。
また日常を題材にするので、セリフだけで理解できる会話劇の方が向いてる気がしました。そのセリフにしてもコロナ禍を扱えばシリアスな理屈っぽいものになるのは予想でき、加えて事細かな説明を要する小説では、醸し出したい日常感が薄れてしまうと考えました。
しかしシナリオというのは本来、映像や舞台などの目に見える形になってこそです。シナリオ単体では未完成品。キャストやスタッフのための説明書で、名脚本家のシナリオは今もこれまでも刊行されていますが、あまり身近でない読み物でしょう。初見では読みづらいかもしれません。
しかし慣れるととても読みやすいものと考えています。フォーマットが決まってますしね。セリフとト書きと柱、3つですべてが表現されます。作者の個性的な文体などは不要と避けられます。
映像化する場合は予算やロケ地や関係者の都合でいくらでも変えられ、それを前提に書かれるので細部の指定は最低限。結集する多くの才能を縛らないためにも余白が作られます。
その説明不足がかえって好きに想像していい自由度を高め、未完成品だからこその良さがある。自分にとっては小説よりも好きな物語の形式でした。頭の中でいくらでも肉付けできる。登場人物をすべて演じてもいい。
「台本」とも呼ばれるようにあくまで叩き台で、自分は以前から小説の下書きとしてシナリオを書いてきました。映像作品を想定したシナリオですが、映像化の野心などは毛頭なく、ただ映像的な小説を書くのに一番だからです。
しかし今回は小説化するつもりがなく、ホームページでの連載時に幾度か(数編について)考えてみましたが、シナリオ以上にはならないとやめました。今もこの形が最適、と考えています。自由に空想し、お楽しみ下さい。
なお今回の出版にあたり、各話の並びを時系列、出来事の起こった順にしました。
巻末にはこの順番と異なり、執筆順で各話の「あとがき」を掲載しています。大半シナリオと同時に書かれたもので当時の出来事、背景、創作の意図がわかりやすいと思います。
いま読むと多少ズレた点はありますが、それはそれ、「当時はこうだった」という記録としてお読みいただけたら幸いです。
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シナリオの用語・略語
セリフ
「 」で括った登場人物の話す言葉です。映像にいない人物の場合は、**の声「***」といった表記を用います。
ト書き
人物の動き、状況などの説明です。映像効果の指定もあります。
柱
シーンの区分、場所や時間の指定です。通常は○から始まり、最終的にはシーンナンバーが記されますが、このシナリオ集では強調のため●で始まる表記です。
N
ナレーションの略です。
F.I.
フェードインの略。徐々に現われる映像効果です。
F.O.
フェードアウトの略。徐々に消えていく映像効果です。
O.L
オーバーラップの略。前後の映像が重なるように移行する効果です。
フラッシュインサート
ともて短い時間、映像が挿入される効果です。
モンタージュ
いくつかの短い映像の積み重ねです。
カットバック
異なる場所でのやりとりを交互に見せる演出です。