この作品より前に4本の短編を立て続けに書いたのですが、自分は話を考える時なるべく前作から離れようとします。例えば中年女性を主人公にしたら次は若い青年に、その次は女子高生を…というようになるべく直前の作品とはかぶらないようにします。

それで4本書き終えた時に「これは短編集になるな」と思いました。様々な世代を主人公にした短編集。次に書くのは30代か老人世代だな、と考えた時に浮かんだのがこの「友情結婚」のストーリーです。30代の男女、結婚に向かう世代、しかし普通の結婚ではなく同性愛者たちの結婚はどうか。

しかし浮かべてすぐに「これは短編で収まらない」とわかりました。ゲイとレズビアン、2組の同性カップルが互いのパートナーを入れ替えて偽装結婚する話です。どんなに絞っても中編以上になってしまう。

短編に集中しようとしていた時期でした。それに同性愛者を主人公に据えることははじめてで、自分の手には余るとも思いました。

それであらすじだけを仕上げ、取りかかるのを保留にしました。そんな時に起こったのがある国会議員のLGBTに関する騒動です。それで「これはいま書くべきだ」と取りかかりました。

努めたことはとにかく同性愛者の当事者の人たちを傷つけないようにです。一括りに同性愛者と言ってもいろいろな人がいるでしょう。カミングアウトして周囲に理解を広めようとする人もいると思います。そういう人はメディアに取り上げられたり目立った存在になりがちですが、実際はそこまでできない人が大勢ではないか。それでカミングアウトできない4人の男女を主人公にしました。愛する相手が同性というだけで、ほかは特別変わったところがない男女。職場や学校などにいくらでもいそうな人たち。ともだちになれるかどうかは別として、その生活をこまごま見せられたら好きにならずにいられない、そんな風に描きたいと思いました。

あと心がけたのは悪役をつくらないこと。あからさまに同性愛者を差別するキャラクターがいれば、物語に触れた人は「あいつが悪い」と切って捨てられるでしょう。それで終われる。自分には何も反射しない。

しかしそうではなく、あからさまな悪意を持った人はいない、むしろ善人ばかり、しかし主人公たちを苦しめ追いつめているのはそういう人たちの何気ない言葉や態度、もしかしたら自分も誰かを傷つけてるんじゃないか…物語に触れたあとそう思ってもらうのが目的でした。そう思ってもらえなければ意味がないと考えました。

主人公たちは傷つけられても耐え忍び、誰かを責めることなく自分が変わろうとする。さらに進もうとする姿勢…差別はまったく肯定しませんが、マイナスの環境ほど人を鍛え、憧れを抱きたくなるほどに育むのかもしれない。それを併せて書きたいと思いました。


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